100億円の児童相談所

 

こさいたろうの視点・論点 0070

2018/11/01

 

100億円の児童相談所

 

南青山5丁目、青山表参道の路地裏に児童相談所を作るという。土地代72億円。僕が区政報告会でよく使っていた農水省関連の会館跡地、いつの間にか港区が購入していた。この土地代も含め、100億円プロジェクトだという。

 

近隣住民が猛反対と報道されている。が、本当に住民だろうか。一部はそうかもしれないが、ネットの情報を見ると、あおっているのは新興の不動産屋のようだ。よく知っている。町会・商店会といった地域社会とは一線を画しているような人たちだ。名前はよく知っている。

 

だいたい、子どもの声が騒音だとか、街を台無しにするとか、田町の方でいいじゃないかとか、どうかしている。常軌を逸している。僕が知っている青山表参道を守ってきた地域住民の方々はこんな口汚いことは言わない。青山に住む人がこんなに差別的だと思われるのは、元住民として本当にさみしく、つらい。

 

ただ、同じ青山で似たようなことが数年前に起きていた。場所は、青山墓地に近い南青山二丁目。財務省の用地を港区が購入し、障害者グループホームを作ろうとしていた。そこで反対運動が起きた。

 

反対した住民の中心メンバーは、先生と呼ばれていた地域の有力者。僕も区議選初挑戦の時から応援してもらっていた。土地の価値が下がる、障害者は街にそぐわない、海沿いの方に作ればいいじゃないか、今回の反対理由とほぼ同じような言葉を次々と浴びせられた。

 

当時、僕は港区議会議員。あまり人には言わなかったが、政治家を辞めたくなるほどの衝撃を受けていた。なぜそんなに嫌悪感を抱くのか、障害者はそんなに汚いもので、まちの価値を下げてしまう存在なのか。そんなことあるわけがないじゃないか。

 

でも、現実に、その「先生」のまわりには反対メンバーが集まっていた。逆に、僕のことをおかしいと、なぜわかってくれないのか、と詰め寄られた。結局、皆さんの主張に賛同することはできないとはっきりと伝えざるを得なくなった。その後、同じまちで一緒に活動しづらくなってしまった。

 

僕は、もっと大きく社会を変えねばならないのではないか、と思うようになった。同じ人間なのに邪魔者のように扱われることがあってはならない。政治は、社会のありようそのものを変える努力をすべきではないか、と思うようになった。そのためには、日本全体の風土にメスを入れなければならない。

 

これが当時、僕が国政を志向するに至ったいくつかの理由のうちの一つでもある。

 

 

 

当時、本当はそもそも、多額の税金を投入して財務省の土地を購入する必要があるのか、ということを区議会で追及していた。障害者グループホームがその場所に必要だからその土地を買ったわけではなく、とにかく確保しておこうということで買った土地に、さて何を作ろうかと考えたのが実情だった。税金がうなるように集まり、貯金が使い切れないほど貯まっている特異な地方自治体だからこそできること。今回の「100億円の児童相談所」も、買った後にこれで行こうと決まったものなんじゃないかと、推察している。

 

税金で仕事をする以上、いくら富裕自治体だからと言って何をやってもいいということにはならない。例えば、障害者グループホームや児童相談所が本当に必要でも、多額の税金を投入し土地を買い、建物を建てて設置しなければならないのだろうか。民間の建物の床を確保したり、再開発の中に必要な公的施設を入れ込みまちづくりする、といった発想が必要ではないだろうか。

 

苦労せず巨額の税金が毎年集まり、使うことにすら汲々とする自治体には、残念ながら知恵もアイデアも出てこない。だから僕は、必要な分を計り、必要な分だけ税金を預かる政治を実現したかったが、断念するに至った。自らの生活を継続させるという、基本的生活力に欠けていたのだから、致し方なかった。

 

いずれにしても、港区が100億円かけて青山に児童相談所を作るべきかどうか、税金投入という観点から十分な精査が必要である。ただ同時に、子どもや障害者が集まり、暮らす施設が迷惑だ、などという差別的社会を許容するわけには絶対にいかない。

 

悲しすぎる、今の日本。

 

農夫 こさいたろう(小斉太郎;元 港区議会議員)

 

 

※ 今の社会や政治に対して思うことを書き、発信する活動「こさいたろうの視点・論点」を始めています。

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東京都心の摩天楼化を見て思い出すこと

 

こさいたろうの視点・論点 0063

2018/09/03

 

東京都心の摩天楼化を見て思い出すこと

 

先日、旧知の方より連絡がありました。港区西麻布の再開発に関して調べているとのこと。当該地周辺に住んでいる人で今も付き合いがある人があれば紹介してほしいとのことでした。私も山梨に移りすでに丸5年。振り返ってみれば、港区で生活していた日々は遠い昔のこととなりつつあります。

 

そんな話があったこともあり、今の港区の開発動向はどうなっているのか気になり、ネット検索をかけてみました。相変わらず、続いていますね。新橋・虎ノ門・赤坂の港区北部と、新橋駅から品川駅付近までの東海道線沿いは「再開発促進地区」に指定され、多くの開発が進行中です。

 

都市計画決定による街づくり地区位置図(PDF:943KB):港区役所公式サイトより

https://www.city.minato.tokyo.jp/toshikeikaku/toshikeikaku/chikukeikaku/documents/h30machizukuriichizu.pdf

 

都市計画による街づくり地区の一覧は、以下の表にまとめられています。完了しているもの、進行中のものを含めて、全部で50地区あります。この中には有名な、六本木ヒルズや東京ミッドタウンももちろん入っていて、最近ニュースになっている品川・田町間にできる山手線の新駅を核とした開発も含まれています。

 

都市計画による街づくり地区の一覧(PDF:108KB):港区役所公式サイトより

https://www.city.minato.tokyo.jp/toshikeikaku/toshikeikaku/chikukeikaku/documents/h30machizukurichikuchiran.pdf

 

私が港区議会議員に初当選させて頂いたのは平成7年(1995年)。そのころは13番目くらいまでが完成していました。その後、汐留、品川駅東口、泉ガーデンなど、続々と大規模な開発が完成していきました。この20年余りで、港区の街並みは大きく変貌したのです。

 

私は、大規模な再開発に必ずしも反対する立場ではありませんでした。時代に合わせ、防災上の観点や経済の進展も見据え、開発が必要な地域はあります。森ビルや三井不動産などは総じて、開発後のソフト面のまちづくりも見据えて手掛けていたように思います。

 

 

大手デベロッパーが大規模再開発を手掛ける一方で、主に経済政策的意味合いから建築関連の規制緩和がなされ、小さな敷地に異常に背の高いビルが建てられるようにもなっていきました。総合設計制度やら天空率やらという制度で容積率が緩和された結果、周辺のまちなみに合わないビルが立ち上がりました。

 

私は当時、良好な住環境を長期にわたり維持・発展させるためには、良好なまちなみ、景観を保つための仕組みが不可欠だと主張していました。背の高いビルが計画されると、周辺住民が反対するといういわゆる「建築紛争」が頻発していました。

 

法令上建築可能となれば、事業者はなるべく高く立てて、儲けを多くしたいとなります。まあ、やむを得ないですよね。だから、いくら反対運動を起こしても実のある結果は得られません。時には、ゴネにゴネて金で解決させようとする住民が、議員がいたことも事実です。

 

いろいろ勉強しまして、これは「絶対高さ制限」というルールを設定しない限り、まちなみの維持・保全はできないな、という自分なりの結論に至り、議会で強く取り上げることにしたのです。でも、あの当時の区役所は動きがかなり鈍かったんですよね。

 

以下のような質問を何度もしたのですが、まあケンモホロロ、と言いますか。正直、真剣に取り上げてくれるような雰囲気はありませんでした。

 

絶対高さ制限を定めよ(小斉太郎一般質問要約):https://wp.me/p8PEo8-qE

建物の高さ規制を早急に(小斉太郎委員会質疑要約):https://wp.me/p8PEo8-u7

 

でも、この機会に港区役所の公式サイトを見ましたら、実現させてくれていました。なかなかしっかりした形で。すでに、港区議をやめて7年になりますが、わずかながらも政策決定に影響を与えることができたように感じ、今更ながら勝手に喜んでいます。

 

絶対高さ制限を定める高度地区の概要(PDF:563KB):港区役所公式サイトより

https://www.city.minato.tokyo.jp/toshikeikaku/documents/koudo_summary.pdf

 

政治・行政の世界では、「都市計画は国家百年の視点で」とも言われます。老朽マンション建て替えを検討する関係者などには「資産価値が下がる」と評判が悪いようですが、長期的視野に立てば絶対に必要なルールだと私は今も確信しています。

 

こんなことを思い出しました。昔話にて恐縮ですが、「少数でも、主権者の賛同を得ることにより、言論で政治を動かせる」いうことを現役の政治家各位に今特に伝えたいと思います。

 

 

農夫 こさいたろう(小斉太郎;元 港区議会議員)

 

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絶対高さ制限を定めよ

 

小斉太郎、一般質問より。

昨今、天空率を採用した建築物に関わる建築紛争が多い。

私のゆかりのある地域でいえば、日赤通り商栄会の真ん中に12階建ての建物が計画されている。これも天空率採用物件。既存のスカイライン、町並みからは突出した高さ。既存の最高高さは7階程度。しかも、商店街の真ん中の計画でありながら、1階部分に商店が入るスペースはない。それでも、各種法令にはかなった建築物であり、これまで町を形成してきた周辺住民は結局、その意向のほとんどを反映させられず、ほぼ計画通りの建物が出来上がる。これが、現実。

 このような事例を数多く目の当たりにする時、港区という地域、さらにその中のそれぞれの地域にふさわしい、「町のルール」が必要なのだ、との思いを強くしている。でも、「町のルール」を作るにあたって、区長の言うような「地域住民の発意と合意」を住民自身で行うのは、率直に言って困難。できる地域もあるかもしれないが、極めてレアケース。このような問題こそ、区長が音頭を取るべき。積極的に働きかけるべき。そうでなければ、事態は改善しない。

 この10年来、港区各地では、地区計画制度の活用や総合設計制度による許可を受け、さらには天空率という仕組みを受けて、まちの高層化が進んだ。はっきり言って、行き過ぎ。そう感じているのは私だけではない。だからこそ、所属を問わず、ほぼすべての会派の議員が、絶対高さ制限に言及するようになっている。

この間にも、高層ビルは増え続ける。そして、一度建ったら、実質的に何十年も更新不可能。もはや、考えている余裕はなく、決断の時。天空率採用の物件を規制するには、今のところ、「絶対高さ制限を定める高度地区」を指定するしかない。総合設計制度の物件についても、特に例外規定を設けなければ、同様。

 

質問 現時点の調査・検討状況は。

答弁 昨年度、実施自治体の調査、本年度は既存建築物調査を行い、庁内検討委員会で検討中。

 

美しいまちなみを将来世代に

 

質問 天空率採用物件をはじめ、行き過ぎた高層化が進んでいる。一度経ったら何十年も更新不可能。もはや、考えている時でなく、決断の時。絶対高さ制限導入の決意や如何に。

答弁 高層建築物が住環境や街並み景観に及ぼす影響が顕在化。高さ制限導入の必要あり。検討深める。また、区民発意による良好な景観形成が進むよう積極的に取り組む。